薔薇の植え替えを始めているのですが、毎年悩むのは根頭癌腫病の殺菌につかうヤシマストマイって何倍で希釈してどのくらい浸漬すればよかったっけ。。という疑問。

主に作物に使われる薬剤なので、盆栽人が喜ぶような作物名には到底ヒットするはずもなく、イモとか、白菜とかコンニャク用に作られています。

いつもは他のストマイユーザーのブログをみたりして、1000倍で1時間くらいで手を打つのですが、最近はきちんと調べないと気が済まなくなってきていて、ついにはTiプラスミドを調べだしてしまったので、聞いたほうが早いと住友化学園芸に電話しました。

今日はその内容をまとめてみますね

根頭癌腫病ってなに

「根頭癌腫病」はバラ科特有の細菌性の病気として知られていて、盆栽では野薔薇や木瓜や長寿梅、桜、梅の他、葡萄などの樹種の癌腫に感染する可能性があります。

根頭癌腫病は植物の根や根ぎわにできる腫瘍の一種で、グラム陰性菌「アグロバクテリウム」Agrobacteruim tumefaciensという土壌細菌の感染によって引き起こされる病気。

どこの土壌中にも普通に存在し得る細菌で、宿主となる植物も多く園芸業界で恐れられる病気の1つです。

感染すると癌腫病菌の遺伝装置(Tiプラスミド)が植物遺伝子内に組み込まれ、癌腫を作る指令を出して病菌の住処を作らせ、植物体から栄養を奪います。

そのため感染した植物は生育不良を起こして次第に元気を失い、実付きや花付きが悪くなったり枯死することになります。

根頭癌腫病は遺伝子レベルでの感染を起こすので、病原菌を一度除去しても腫瘍が治ることはなく、そのままにしていると年々大きくなります。

根頭癌腫病予防には秋の植え替えがいい

根頭癌腫病の病菌4月頃から活動し、気温が高くなる夏にかけてとくに増殖することが解っていて、気温が低くなって菌の活動がおちる秋に消毒を兼ねて植え替えすることが一般的です。

そもそも樹にとって植え替えは芽出し前と秋どちらでもいい感じで、冬までに新根が動いていれば秋の方が都合いいこともあります。

春に植え替えすると根や枝の伸びが強くなりやすく、徒長枝がでやすいという話もあるので、私は秋の植え替えにシフトしている樹種が多いです。

ぜんぶ芽出し前にできれば1番いいんですが、数があると間に合わないのでできる樹からやる感じ。

ただし秋の後は冬が来る。凍結や霜で根を傷めやすい時期でもあるので、保護はしっかりやりましょう。

癌腫病は治らない。ヤシマストマイは治療薬ではない

まず知っておきたいのは、根頭癌腫病は治療が難しい(というかできない)ということ。病菌の繁殖場である癌腫を綺麗に切除して、洗浄や消毒で病菌を除去できたとしても、遺伝子レベルで感染した病気ですから、再発しやすい病気です。

ヤシマストマイはストレプトマイシン系の殺菌剤で、白菜の軟腐病やイモのそうか病、黒あし病、こんにゃくの腐敗病などに効果があります。

アグロバクテリウムもグラム陰性菌という細菌で、菌が生きていくために必要なタンパク質の合成を阻害することで繁殖を予防する一定の効果があるとされています。

ですが一旦菌が侵入・感染してしまった場合はその治療効果はほとんどなく、あくまでも予防(しかも一時的)なものとして理解しておかないといけません。

病気の性質上、明確に有効な治療薬もありません。

アグリマイシン100水和剤日農ヒトマイシン液剤Sなどストレプトマイシン系の殺菌剤や、オーガニック系のレンテミン液剤など効果のありそうな薬剤は他にもあるので、試してみるといいかな。

効果に違いがでるだろうし、耐性を持つものなので、いくつか種類を揃えておくのはいいかもしれません。

良い感じのストマイの使い方を担当者に聞いてみました

担当は人の良さそうな男性でした。

「自分は盆栽をやっていて、わしらバラ科の殺菌にはいつもヤシマストマイ使わせていただいてますっ!いつもありがとうございますっっ!」盆栽界を代表した感じで日頃のお礼をいいました。

「え、ぼん さい、あ~そうですか、そうなんですかええ、はいなるほど~」

まず、そもそもヤシマストマイは癌腫病に効果があるのか?と聞いてみたところ、「予防の意味では効果があると思います」との返答でした。(デスヨネ)

希釈倍率は1000倍が標準のようですが、説明書では散布の場合の濃度であり、口にする作物の葉に薬害が生じない安全な濃度に設定してあって、球根や種芋などの休眠期の使用ならそれよりも高濃度の方が効果があるということでした。

種芋には100倍液で数十秒浸漬と書いてあるので、1~2月に行う薔薇の殺菌には100倍~500倍で時間を調節してつかってもよさそうだという結論になりました。

ただし抗生物質なのであまり高濃度で長時間浸漬すると薬害が生じる可能性があるとされます。

実際これまでに私もいろいろな濃度でやっていたりしますが、濃いからといって、長いからといって特に薬害を感じたことはないです。

しかし抗生物質ですから、ぱっとみて解る薬害ばかりではなく長期的に観察しないと解らない部分もあるかと思います。

結論:休眠期の薔薇の殺菌は濃い目のほうがいい

薬剤を使う時に1番大事なのは、最も効果的な濃度と適した方法で使うこと。

薄い濃度でだらだら使っても効果はないし、逆に耐性持たせてしまう可能性もあります。

残念ながら盆栽用に作られている農薬はないので、培養者はそれぞれに工夫して、そしてそれをみんなで共有しながら1番いい使い方を見つけ出すしかないかと思います。

無駄につらつら書いてしまいましたが

個人の結論は、ヤシマストマイは500倍で1時間使用するところで落ち着きました。100倍でもいいけど、長時間つけると薬害でそうだし、1000倍だと薄いようだし、やっぱり500倍くらいにしとこうという。最期は適当です。

100倍なら20~30分でもいいかな

成長期に使う場合は500倍~1000倍を目安にしていいと思います。

また少し経過観察をして、最終的な結論とします。

後日追記:担当者から正式な回答がきました

数日後、担当者から正式な回答がメールで届きました。

「当製剤は根頭癌腫病についての明確な知見がないので、適した使用方法や効果については解らない」という内容

つまり「たぶん効果がある」くらいのおまじないのようなものなのかもしれません。

本当は、ヤシマストマイ液剤20(農薬登録番号:第11056号)は、バラの根頭癌腫病に登録がなく、その効果、薬害、環境等への安全性等により使用できない農薬。

根頭癌腫病への登録がある農薬には日農さんの「バクテローズ( 農薬登録番号:第17474号、農薬の種類:アグロバクテリウム ラジオバクター剤 )」があるようです。(※これも予防薬で、治療ができるわけではありません)

https://www.nichino.co.jp/products/query/id2.php?id=55

微生物農薬で安定した出荷がなく、値段も高い。

去年はバクテリアの培養に失敗したらしく、今年の出荷はなし。今年は6月頃に出荷できるかどうかだそうです。